2024年5月24日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、第27回GGRブラウンバックランチセミナー「偽情報で混乱するアジア −インドと台湾の事例」と題したセミナーを開催しました。本セミナーは、中国語の情報環境について研究し、この分野に精通した台湾の市民社会研究団体である台湾情報環境研究センター(IORG)の共同ディレクターである游知澔(Chihhao Yu)氏と、ニューデリーの大手シンクタンクであるオブザーバー・リサーチ財団(Observer Research Foundation: ORF)シニアフェローであるニランジャン・サフー(Niranjan Sahoo)博士の2人の専門家を講師として開催されました。両氏とも、自国の選挙・民主主義プロセスにおける偽情報の影響について、それぞれ証拠を示しながら説明しました。
游氏は、台湾の情報を用いた影響作戦・偽情報工作の事例を紹介しました。IORGはソーシャルメディア・ネットワーク(SNS)上での中国語コンテンツの動きを分析し、国内外のアクターの活動を追跡しています。游氏は、偽情報は直接的に参加するメカニズムを持った民主主義国家において、最も危険であることを説明しました。游氏らの調査は、中国が台湾の情報環境を操作することに明確な関心を示しているだけでなく、同時にさまざまな形の脅威を形成していることも示しています。例えば、台湾周辺で軍事演習を行いながら、台湾国内に恐怖を広めることが挙げられます。また中国政府は、ナラティブを拡散することで、もう一つの世界の見え方を作りだし、世界中の中国語読者に影響を与えようとしています。その方法の一つとして、台湾の内から発出した声のように見せ、民主主義に懐疑的な言説を広めてきました。また游氏は、中国政府に有益な抖音(Douyin)コンテンツが、国際的な視聴者向けのTik Tokへどのように移行されているかについても言及しました。
ニランジャン・サフー(Niranjan Sahoo)氏は、来る選挙に向けたインドについて説明しました。世界最大の民主主義国家であるインドでは、重要な選挙の年に偽情報が蔓延するのではないかと、専門家の間で懸念が高まっています。サフー氏は、新型コロナウイルスによるパンデミックを取り上げ、インドは「世界のフェイクニュースの首都」であると述べました。サフー氏によれば、偽情報活動はヒンドゥー教を支持する右派政党によって行われ、これが国内でのヘイトクライムの増加につながっているとしました。
またサフー氏は、現在のインドの情報環境で起きている傾向についても言及しました。まず、偽情報の作成で利益を得る第三者へのアウトソーシング、ヘイトを生み出す工場、そしてインド人民党(BJP:Bharatiya Janata Party)のIT部門の行動を説明しました。偽情報の潜在的な影響は、インターネット・データを用いることが非常に安価であり、ソーシャルメディアの利用が多いことと関係しています。
セミナーの最後には、両講師に対し参加者から、市民社会の役割、偽情報の影響、偽情報による隠匿や影響を受ける現在の国際問題に焦点を当てた質問がありました。また、情報を収集の選択肢が少ない海外の中国語コミュニティについても触れられました。
【イベントレポート作成者】
ハニグ ヌニェズ サッシャ (一橋大学大学院法学研究科博士課程)
【日本語翻訳者】
熊坂 健太(一橋大学国際・公共政策大学院修士課程)
中島 崇裕(一橋大学大学院法学研究科修士課程)