グローバルリスク・危機管理プログラム
【GGR講演会】Geostrategy and International Affairs: A Net Assessment
日にち2023年9月13日
時間15:30~17:00
開催場所マーキュリータワー会議室
イベント概要

2023年9月13日に、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)と国際・公共政策大学院(IPP)はロブ・ジョンソン博士(英国国防省国務長官ネット評価・挑戦局(State’s Office of Net Assessment and Challenge: SONAC)局長、オックスフォード・チェンジング・キャラクター・オブ・ウォー・センター(Oxford Changing Character of War Centre)前所長)を講師にお招きし、GGR講演会「Geostrategy and International Affairs: a Net Assessment」を開催しました。

ジョンソン博士は、国際関係論の研究がどのように将来を予測しているかと関連付けながら、予測の科学について深く分析しました。博士はまず、都市化、ワイヤレス通信、家庭用ロボット、オンラインショッピングの普及などの、過去には不可能だと考えられていたような予測が、現在では私たちの日常生活の現実となっていることを、興味深い点として論じました。当初はこれらの予測に対して懐疑的な目が向けられ、信じがたいように思われていたにもかかわらず、実際には現実のものとなったと指摘しました。適切な方法を用いることで、実際に未来予測の精度を高めることができる一方、ジョンソン博士は、ますます予測不可能になっている世界には、より高度な予測ツールが必要だと強調しました。そのようなツールには、革新的なテクノロジーや新たな分析アプローチが含まれうると指摘し、後者の具体例として、国際関係論、歴史学、行動科学などを学際的に融合することを挙げました。そして、現在のツールは時代遅れの基準に依存し、正確な予測に必要な洗練性を欠いていると主張し、「ネット・アセスメント」と呼ばれる概念を導入しました。

ジョンソン博士は、ネット・アセスメントを、戦略的優位性を特定し、意思決定を向上させることを目的とした、アクターとシステムの強みと弱みを評価する、綿密で長期間にわたる比較分析であると定義しました。ネット・アセスメントは戦略とともに行われ、戦略は意思決定と実行を通じて目標を達成するための計画的な資源の配置と定義されます。博士によれば、戦略は時にネットワークや、フロー、コミュニケーション、あるいは資源の移動にもなりえます。さらに、戦略的優位性とは、計画を実行するための、より大きな量や質の資源、レバレッジ、ポジションを獲得することでもあると説明しました。さらに、ダイナミック・アナリシスを定義し、さまざまな主体(特にアクターとシステム)の相互作用と説明しました。さまざまなアクターやシステムの長所と短所を動的かつ長期的に比較分析するため、ネット・アセスメントは国際関係に対しユニークな視点を提供すると説明しました。また、政府の意思決定者がエビデンスと批判的推論に基づいた、より適切な選択を行う助けをすることが自身の仕事であると強調し、ネット・アセスメントは、政策決定者が戦略的優位性を特定し、十分な情報に基づいた意思決定をすることに有用だと付け加えました。続いてジョンソン博士は、ウクライナ・ロシア戦争や中国の台頭などの、現代の問題を取り上げました。ウクライナにおける戦争については、ロシアが短期的な戦略から長期的な戦略へと転換する必要性を強調し、プーチン大統領の今後の行動について予測を述べました。中国の台頭については、国際関係における中国の野心がロシアとどのように異なるのかを分析し、中国が世界経済システムや国際制度、台湾問題などにおいて長期的な計画を重視していると指摘しました。

質疑応答セッションでは、人的なファクターに基づく未来予測、2050年以降の国家の様相や生産性、中国の意図、ネット・アセスメントを用いたソフトパワーの評価、政策決定におけるネット・アセスメントの有用性、国際秩序を維持するためのブロックチェーンやビッグデータ分析がもつ技術の重大な欠陥などに関する質問が出ました。イベントの最後で博士は、BRICSに関する質問に対して中国と世界貿易機構(World Trade Organization: WTO)の例を挙げて回答しました。ジョンソン博士は、なぜ単に世界貿易機関内でゲームのルールを改善し、最も多くの人々に利益をもたらす政治経済学の概念に焦点を当てないのかと、問を投げかけました。中国は中東と一部のアフリカ諸国のモデルとして機能する可能性があるものの、莫大な金額のお金が疑わしい行動をするような特定のアフリカの指導者に流れており、彼らがロシア、中国、ロシアの傭兵集団からの外国直接投資を利用して、多数派の人々には民主的でも公平ではない権力の形態を維持していると指摘しました。

【イベントレポート作成】
ニン・テ・テ・アウン(国際・公共政策大学院 修士課程)
ラクウォン・パキット(法学研究科 博士後期課程)

【翻訳】
金 浚晤(法学部 学士課程)
中島 崇裕(法学部 学士課程)