民主主義・人権プログラム
【GGRトークセッション】ミャンマー危機はなぜ終わらないのか
日にち2023年7月21日(金)
時間13:30〜14:30
開催場所マーキュリータワー3302教室
イベント概要

2023年7月21日、一橋大学グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は中西嘉宏准教授(京都大学東南アジア地域研究研究所)を講師にお招きし、GGRトークセッション「ミャンマー危機はなぜ終わらないのか」を開催しました。

中西准教授は、2021年2月にミャンマー国軍が起こしたクーデターの経緯や、それに起因する様々な危機の詳細・終焉が見えない理由、そしてミャンマー危機の今後の展望について解説しました。まず2021年クーデターの背景について、中西准教授は、国民民主連盟(National League for Democracy: NLD)が2020年の総選挙で大勝し、国軍がNLDの選挙不正を訴えたこと、そして国軍がNLDに対して選挙不正の調査等を求めた交渉が失敗したことを挙げました。さらにクーデターには、国軍と民主化勢力間の国家観の相違や、民主化の進行に伴う国軍の利権の減少、ミンアウンフライン国軍最高司令官の野心が反映されているとも述べました。そして、国軍が街頭デモなどの反クーデター運動を弾圧する一方で、市民や民主派政府は抵抗勢力を結成した結果、ミャンマー国内で紛争が頻発し、多くの国内避難民が発生していることが説明されました。こうしたミャンマー危機については、国軍側も抵抗勢力側も紛争に勝ちきれない状況にあり、また国際社会も対応に足並みが見られず、そして国連の活動も効果が薄いことから、終焉がみえていないと論じました。最後に今後の展望について述べた中西准教授は、①国軍管理下の選挙を経た親軍政権の誕生、②軍事政権の継続、③国軍と抵抗勢力の和解、そして自由で公平な選挙を経た権力の分有、の三つのシナリオを提示し、現状では①と③は非現実的であると指摘しました。

質疑応答セッションでは、2015年総選挙においても2021年総選挙と同様にNLDが圧勝したにもかかわらず、2015年にはクーデターが発生しなかった理由や、国軍と抵抗勢力間の対話・妥協の可能性、そしてミャンマーにおける軍政レジームの登場の背景などに関する質問がありました。セッションの最後に中西准教授は、ミャンマー危機は国際的な関心が低く、「国軍が悪い」といった理念的なレベルで議論が完結し、紛争の実態や制裁の効果の検証が十分に行われていないことの懸念を表明しました。その上で、「国軍を裁く」という正義感のみならず、国軍との妥協をも視野に含めた議論を行う必要があることを指摘しました。

 

【イベントレポート作成】

中野 智仁(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)