2022年11月21日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)はラーム・エマニュエル駐日米国大使をお招きし、「ラーム・エマニュエル駐日米国大使特別講演 -自由で開かれたインド太平洋と日米関係」と題するGGRトークセッションを開催しました。講演は駐日米国大使館との共催で、一橋大学国立キャンパスインテリジェントホールで行われました。講演には一橋大学の学生並びに教職員約55名が参加しました。中野聡一橋大学学長のあいさつに始まり、市原麻衣子教授からの質問への大使の応答、そして学生と大使の質疑応答の形式で行われました。
市原教授とのセッションでは、自由で開かれたインド太平洋(Free and Open Indo-Pacific: FOIP)構想の持つ「自由」と「開放性」の側面、そして日本や市民社会の役割について議論が行われました。大使は中国やロシアにおける抑圧的状況や不正な選挙操作と対比しながら、アメリカだけでなくブラジルやイスラエル、フランスといった諸外国でも自由な選挙が高い参加率のもとで行われ、選挙結果も受け入れられていることを指摘し、バイデン政権下の民主主義が立脚する自由の側面は良好な状態にあると評価しました。このような内政における民主主義の成功が外交にも波及するとして、FOIPの持つ価値を日本をパートナーとして広げていく必要性を訴えました。
日本とアメリカは異なった課題を有するとしながらも、インドネシアで開催されたG20への参加や、APECへのハリス副大統領の参加に言及し、アメリカが有するアジアに対する戦略的重要性の大きさを指摘しました。また、2022年3月3日の国連総会における対ロシア非難決議においてアジアの10か国のうち8か国が賛成し、4か国が共同提案に加わったことから、アジアにおける規範の浸透を高く評価しました。また、韓国や台湾の民主化に触れながら、市民社会や文化的なエンゲージメントによって自由や法の支配、個人の尊重といった規範を投影する重要性を説きました。
学生とのセッションでは、地方自治体レベルから国際レベルまで、そしてヨーロッパからアジアの情勢まで幅広い議論が行われました。まず、大使はシカゴ市長の経歴から、市長は市民社会と緊密かつ親密に仕事を行う事ができると指摘し、国政レベルでは達成できないようなマイノリティの人権保護や気候変動といった問題に対して地方自治体が大きな役割を担うことができると述べました。また、日本はアメリカとともに規範や価値をインド太平洋地域に投影していく必要があると指摘しました。
ロシアによるウクライナ侵攻と同盟政治に関しては、ウクライナに対して支援を続けるバイデン大統領を高く評価し、侵攻によりスウェーデンやフィンランドがNATO加盟を決意したこと、ウクライナとの規模の違いにもかかわらず要衝で敗走し続けていることなどを例に、ロシアは戦争に勝つことはできないとしました。そのうえで、ウクライナと異なり公式の同盟である日本に対して、アメリカが日本の一体性・自由・独立を防衛する義務を有することは自明であると述べました。
また中国に対して真剣に取り組まなければならないと厳しい姿勢を示しました。日本や韓国、オーストラリア、リトアニアに対する経済的攻撃によって経済的依存の危険性が明らかになり、香港における一国二制度の破棄やフィリピンとの海洋問題から、国際的な信頼も揺らいでいると指摘しました。中国の挑戦に対して準備する必要があると述べ、台湾問題に関して軍事的手段の使用は認められないというアメリカの立場は変わらないと論じました。
加えて、規範を共有しない同盟国との対話継続の必要性を訴えました。小さく脆弱な国家にとって、ロシアのウクライナ侵攻に見られるような動きが国際的に受容されることの問題を指摘しました。そのうえで、上述のロシア非難決議に賛成票を投じなかったアメリカの同盟国であるタイについては、関係を断絶するのではなく、対話を続け規範を受け入れるように促し続けていく重要性を論じました。
講演に参加した学生からは様々なフィードバックが上がりました。台湾人の学生は大使が訴えるアメリカの東アジアへのコミットメントの強さを感じ、台湾にはアメリカが今なお必要であると再認識したと述べ、ある留学生は日本人学生の日米関係に対する熱心さに感銘を受けたと話しました。
【イベントレポート作成】
中島崇裕(一橋大学法学部 学士課程)