2022年11月30日、グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は、深澤一弘氏(法学研究科博士後期課程/東京工業大学リベラルアーツ研究教育院研究員)を講師にお招きし、「グローバル時代の貿易と労働 ―自由貿易協定における労働条項の政策決定過程」というタイトルで第10回GGRブラウンバックランチセミナーを開催しました。深澤氏が米国と欧州連合(European Union: EU)の自由貿易協定(Free Trade Agreement: FTA)での労働条項を比較分析した論文は、2022年3月に『エコノミア』に掲載されました。
深澤氏は博士論文で、①なぜ締約国によって労働条項の形態が変わるのか、②同じ締約国の協定であるにもかかわらず、締結時期が変化するにつれてなぜ労働条項にも変化が生じるのか、という二つの問題を取り上げています。最初の問題に対し、深澤氏は締結主体が労働条項を盛り込む上でどのような動機を重視するかによって違いが生じると論じ、米国とEUがそれぞれ韓国と結んだFTAに関する比較事例研究を行いました。そして両事例の背後に見られる動機を、経済的動機(国内雇用、賃金に及ぼす影響など)と人権規範的動機(労働者の権利保護)に大別することができると分析しました。また、第二の問題については、社会的·経済的影響など既に締結されたFTAの結果や国際労働基準を含めた規範の変化によるものとの仮説を立て、検証方法として米国・メキシコ・カナダ協定(United States-Mexico-Canada Agreement: USMCA)とカナダEU包括的経済貿易協定(Comprehensive Economic and Trade Agreement: CETA)を比較しました。深澤氏は、通商条件型労働条項と政策協調型労働条項を対照分析した上、最近の事例で現れる労働条項の多様化要因を分析した結果、二つの研究仮説が妥当であると結論づけました。
すべての国が貿易協定に労働条項を盛り込むわけではありませんが、深澤氏は2016年時点で約28.8%の貿易協定で労働条項が発見されていることは注目に値すると述べました。講義の後、教授、学生を含む約10名の参加者は、米国とEUあるいはUSMCAとCETAを比較することが事例選択として妥当であるか、労働条項の二つのパターンで労働基準はどのように異なるのか、労働条項を結ぶ動機が異なるようになった背景に関する質問やコメントがなされました。
【イベントレポート作成】
チョン・ミンヒ(一橋大学大学院法学研究科 博士後期課程)