【GGRトークセッション】政治学・社会科学を研究・就職で活かす ―若手卒業生とのトーク
日にち2022年6月23日(木)
時間17:10-18:55
開催場所第2講義棟 307教室
イベント概要

グローバル・ガバナンス研究センターは2022年6月23日に、政治学および方法論に精通した若手の一橋卒業生である増村悠爾さんと呉東文さんをお迎えして、トークセッションを開催しました。「政治学・社会科学を研究・就職でどのように活かすことができるか」について、司会の市原麻衣子教授、また50名を超える参加者と議論が交わされました。

増村さんは法学部卒業後、修士課程を経ることなくテキサス大学オースティン校の博士課程に合格し、国際関係学や安全保障を専門とされています。具体的には、安全保障理事会や国家のステータスに関する認識などを研究され、統計分析の中でもテキスト分析やトピックモデル、サーベイ実験などを扱っています。現在は共同プロジェクトを含む複数の研究を進行されています。呉東文さんは飛び抜けた計量政治学の知識を持ち、現在はディップ株式会社のデータサイエンティストとしてご活躍されています。計量政治学の中でもトピックモデルなどを実務でも活用し、例えばあるサービスの応募者数と広告における因果関係の特定に貢献されています。

まず、研究動向における自身の研究分野が持つ強み・弱みについて、お二人が分野全体における自身の立ち位置を深く認識されていることを伺い知ることができました。増村さんは、特に米国での因果推論に対する認識の変化を踏まえ、計量分析の強みを統計的な因果推論と透明性、弱みを結果が必ずしも実務家の肌感覚に合うわけではない点であると言及しました。呉さんは、社内に予測や分類に強みを持つコンピュータサイエンス系の人が多いことを踏まえ、計量政治学の強みを因果推論、また特に計量経済学と比較した際の実務への応用可能性が高いこと、弱みをビックデータやアプリ、あるいは推定や部分認識といった新たな分野に対する対応の遅れであると主張しました。

また、研究をする上での工夫についても、学部生の頃から様々なことに挑戦する姿勢が共通して垣間見ることができました。呉さんは、学部の頃に台湾の国立政治大学で外交と経済をダブルメジャーとし、一年間一橋大学に留学されました。留学時代に国際関係学の授業を通じてR(プログラミング言語)の存在を知り、修士課程でも所属外の研究科で上級計量経済学を履修していました。増村さんも、学部生の頃に統計分析の勉強を自主的に始め、実際にRの勉強会を企画し、学生同士の学びで飛躍的な成長を遂げていたようです。

最後に、社会科学、国際関係学、あるいは方法論を卒業後に活かすにはどうすればよいかについて議論が交わされました。呉さんは、とにかくトライすることが大切だとした上で、特にデータサイエンス系への就職を希望する場合は、プログラミング言語に対する深い理解が大きな強みになると助言しました。増村さんは、「レールを外れることを恐れない」こと、つまり周りと少し違っても恐れずに挑戦してみる勇気が大切だと指摘しました。その上で、勇気を持つには、自分と興味関心が近しい人を見つけに行くべきだと述べました。

 

【その他引用】

イベントでの特筆すべき発言を以下にご紹介します。

■増村さん

  • (実務者の肌感覚と異なるという弱みについて)研究では肌感覚が生まれるData Generating Processがあり、そこと相違がでてくるということは、面白いが足りない部分があるというシグナルの一つだと考えています。
  • (研究者を目指す上で大事なことについて)一つは英語、もう一つは研究したいことを見つけることで、その方法としては、常にニュースを見て、これまでの理論などと違う点を見つけに行くことが大切だと思います。
  • (留学での学びをどのように深めるかについて)大学だけではなく、生活レベルでの学びが大事だと思います。友人をたくさん持つこと、またその中で自分がマイノリティになる経験を通じての感性的な部分も大事にしてほしいです。

■呉さん

  • (因果推論が)計量政治学や計量経済学がコンピュータサイエンスに比べて持つ強みであると思います。
  • (実務でのコミュニケーションについて)計量政治学や計量経済学を学んでいない人を説得するためには、わかりやすい反例をみせることです。
  • (留学での学びをどのように深めるかについて)海外でしかできないことをすることです。(友人を持つこと、日本全国を巡ることの文脈において)この前も国分寺から横浜駅まで自転車で行きました。

 

【イベントレポート作成】
土方祐治(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)