民主主義・人権プログラム
インターネットの遮断と表現の自由
出版日2022年5月27日
書誌名GGR Issue Briefing No. 3
著者名ニン・テ・テ・アウン
要旨 インターネットは情報の源であり、それにアクセスすることで老若男女を問わず、世界中の大多数の人々が言論の自由を享受できる。しかし世界の一部の地域では、住民がインターネットの遮断により苦しめられている。2021年2月1日のクーデターをきっかけに、ミャンマーは全国的なインターネットの停止に見舞われた。著者は、インターネットの自由を維持することは民主主義を獲得するために重要であり、更にテクノロジーは自由な経済・政治的選択を可能にしてくれると主張する。インターネットへのアクセス制限は、表現の自由、民主的プロセスのみならず国家の経済問題にも悪影響を与えかねないことを考慮した際、独裁者はこの問題について真剣に検討するべきだと著者は述べている。
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インターネットの遮断と表現の自由

 

ニン・テ・テ・アウン

(一橋大学大学院法学研究科 客員研究員)

2022年5月27日

 

本稿は、ယနေ့ခေတ် နိုင်ငံရေး မဂ္ဂဇင်း (World Today Political Magazine)から出版された「အင်တာနက်ဖြတ်တောက်ခြင်းနှင့်  လွတ်လပ်စွာ ထုတ်ဖော်ခွင့်,」の日本語訳である。原文は、以下のサイトからアクセス可能:

https://www.ynkhit.com/အင်တာနက်ဖြတ်တောက်ခြင်း/

 

 

情報化時代において表現の自由を語るとき、インターネットも必ず議論の対象になる。同時にインターネットが話題となれば、そこには表現の自由に関する問題が内包されている。インターネットは情報の源であり、それにアクセスすることで老若男女を問わず、世界中の大多数の人々が言論の自由を享受できる。しかし世界の一部の地域では、住民がインターネットの遮断により苦しめられている。ミャンマーでは、国民への情報の流れを制限することを目的に、軍事政権がネット検閲を行っている。

インターネットの制限は、独裁者が自らの利益と権威を守るために用いる最も一般的な手段の一つである。市民同士での討論、情報発信、オンライン上での連携などは自らにとって脅威となることから、独裁者はときにインターネットを遮断する。インターネットの接続障害が多発している国には、ミャンマー、コンゴ民主共和国、チャド、エチオピア、中国、ジンバブエが含まれる。

特に中国は、抑圧的なインターネットの規制により、ネットユーザーの権利が最も制約されている国の代表格である。偽情報やプロパガンダの流布は、中国政府がネットユーザーの権利を侵害するために仕掛けたもので、こうした仕組みは他の独裁者も中国とその抑圧的な規制に倣って利用している。

ミャンマーは、最も長期間にわたりインターネットが遮断されている国として、一部メディアに取り上げられることがある。2021年2月1日の出来事をきっかけに、ミャンマーは全国的なインターネットの停止に見舞われた。クーデターが始まった早朝、その直後の逮捕や弾圧などの情報流出を防ぐために、軍事政権はインターネットを遮断した。ミャンマー国民は、Wi-Fiによるインターネット接続が遮断され、独裁者が国中で報道規制を行っていることに気づいた。

同年9月に入って間もなく、25の郡区でインターネットが遮断されたことがインターネットの自由を訴える活動家によって報告された。これにはそれら地域で行われる(軍事政権による)テロ活動の情報を適時流すことを妨げようとする意図があったと考えられ、また、そのような地域でなぜインターネットが遮断されたことの妥当性自体にも疑義がある。

このようなデジタル独裁の拡大がある一方で、インターネットの自由を維持することは、民主主義を獲得する上で重要な努力となっている。またテクノロジーは、強制されることのない自由な経済的・政治的選択を可能にする不可欠な役割を担っている。

シェイムズ・アブデルワハブ(Shames Abdelwahab)とマロリー・ノデル(Mallory Knodel)はオープン・グローバル・ライト(Open Global Right)の記事で[1]、ミャンマーのクーデターに関して、なぜインターネットの自由が世界の民主化プロセスの最前線にあるべきかを論じている。2人は、世界の民主化プロセスは、サイバーセキュリティとインターネットの自由に焦点を当てる必要があると示唆している。さらに、インターネットの自由のために活動する様々な国際組織は、この問題に関して綿密に協力するべきだとも強調している。民主化プロセスに組み込まれるべきインターネットの自由は、表現の自由に直結するのみならず、国の経済発展にもつながることは明らかである。インターネットの自由とビジネスとの関連性は、グローバル・ネットワーク・イニシアティブ(Global Network Initiative)と責任あるビジネスのためのミャンマーセンター(Myanmar Center for Responsible Business: MCRB)が5月に発表した共同声明に見ることができる[2]。声明ではモバイルインターネットの途絶が地元の中小企業の銀行業務に不便さをもたらし、銀行部門の衰退を深刻化させたことに言及している。

インターネットの遮断が国民の表現の自由や民主的プロセスを阻害し、国の経済問題も悪化させかねないことを考慮すると、国際機関からも批判されているインターネットの自由を制限することは、独裁者が考えを改めなければならない必須事項であるはずだ。

 


[1] Shames Abdelwahab & Mallory Knodel, “Why Internet Freedom Should Be at the Top of the Global Democracy Agenda.” https://www.openglobalrights.org/why-internet-freedom-should-be-at-the-top-of-the-global-democracy-agenda/

[2] Global Network Initiative and Myanmar Center for Responsible Business, “Joint Statement on Mobile Internet Shutdown in Myanmar.” https://www.myanmar-responsiblebusiness.org/news/return-full-mobile-internet.html

 

【翻訳】
チョン・ミンヒ(一橋大学大学院法学研究科 博士課程)
土方祐治(一橋大学国際・公共政策大学院 修士課程)

プロフィール

一橋大学大学院法学研究科客員研究員。市民団体、国際NGO、シンガポールを拠点とするアドバイザリーファームにおける実務経験を持つ。透明性を求める市民活動(ミャンマー)(Citizen Action for Transparency: CAfT – Myanmar)でプログラム・ディレクター、ミャンマー抽出産業透明性イニシアティブ(Myanmar Extractive Industries Transparency Initiative: MEITI)でプログラム・マネージャー、ノルウェー・ピープルズ・エイド(Norwegian People’s Aid)でプログラム・オフィサーとして務め、職務を通じて市民団体と活動家を支援してきた。ミャンマーの政治状況、女性の権利、移行期正義、集団行動、表現の自由に関して、ビルマ語と英語で執筆している。フィリピンのアルダーズゲート大学(Aldersgate College)で行政学(修士)、ミャンマーのダゴン大学(Dagon University)で法学学士を取得。