グローバルリスク・危機管理プログラム
【GGRブラウンバッグランチセミナー】ロシア・ウクライナ戦争における核の側面
日にち2022年4月27日
時間12:30-13:30
開催場所インテリジェントホール
イベント概要

グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は2022年4月27日(水)、秋山信将教授(法学研究科/国際・公共政策大学院)を講師として、「ロシア・ウクライナ戦争における核の側面」というテーマで第三回GGRブラウンバッグランチセミナーを開催しました。秋山教授は、主に三点に関する議論を展開しました。

第一に、核使用の可能性は小さいもののその可能性は排除されないという点です。ロシアが核の使用を正当化する可能性のある状況について、以下のような指摘がありました。まず、ウクライナによる化学兵器・生物兵器の製造、及び使用可能性を口実とする場合です。ロシアは「偽旗作戦」を用いて自らの行動を正当化しようとしており、あたかもウクライナ側がこれら兵器の製造、及び使用可能性があるといったナラティブを定着させようとする動きが見られています。つぎに、ウクライナに対する欧米諸国の武器供給を口実とする場合です。ロシアは、この状況を止めるために警告として小型の核兵器を使用する可能性がありえると言及しています。

第二に、「核の長い影」による地域紛争へのインプリケーションに関する議論が行われました。米国がロシアの核兵器使用を懸念すれば、地域紛争への介入に消極的となる「安定と不安定のパラドックス」が生まれてしまいます。この場合、域内国はどのように自国を守らなければならないのか。東アジアでも中国が核心的利益の台湾に進攻する懸念があります。昨今、日本においても「核共有」の議論がなされていますが、その際に考えるべきは核を持つか持たないかの前段にあると秋山教授は論じました。日本が守りたい国益は何か、核保持は抑止戦略上どのような位置付けとなるのか、また欧米との意思決定の共有に付随するリスクと責任を負う覚悟はあるのか。これら情報を精査する必要性が指摘されました。

第三に、国際政治の今後の展望に関する分析が行われました。ロシア衰退のシナリオは考え得るものの、世界市場における食料、エネルギー供給上の重要性を考えればこれは必ずしも好ましくありません。また、大国意識と実際の能力にギャップが生まれた際に戦争に向かいやすくなるといったピーキングトラップ議論もあり、注意が必要です。今後の鍵は、エネルギー市場の転換、および途上国での政治的変動で、特に後者については、食料供給上の困難が増すと途上国は大きな打撃を受けるとし、西側諸国と中国の間でこの緩和を巡る主導権争いが生まれる可能性が議論されました。

質疑応答の20分間では、フィンランド、スウェーデンのNATO加盟がロシアの核戦略に与える影響、台湾問題に関連した中国の対外的核配備の可能性、核の恫喝に関連したメディアの影響、国際的な規範構築に資する国際機関の役割の変化、核保持・不保持による被軍事侵略及び核拡散の可能性等を含む数多くの質問とそれに対する応答が交わされました。約60名もの教員、学生が一同に会した第三回GGRブラウンバッグランチセミナーとなりました。

 

【イベントレポート作成】
鈴木涼平(一橋大学大学院法学研究科 博士後期課程)