グローバル・ガバナンス研究センター(GGR)は2022年3月23日(水)、ニン・テ・テ・アウン(Hnin Htet Htet Aung)法学研究科客員研究員を講師として、「危機的状況下のミャンマーにおける人道的支援」というテーマで第二回ブラウンバッグランチセミナーを開催しました。
アウン氏からは第一に、クーデターが人道的状況に与えた影響について説明がありました。ミャンマーの多くの地域では、治安の悪さ、道路封鎖、アクセス権限を得ることの困難さなどから、人道的支援が制限されたままであり、国際NGOの活動も限定的となっていることが指摘されました。また、医療従事者が軍事政権側の人々にも同様に人道的支援を行うのかといった「倫理的ジレンマ」についての言及もありました。2021年2月1日以降、ミャンマー全土で44万1500人が国内避難民になったと推定されているとのことです。
第二に、人道的支援の遮断が状況をさらに悪化させる可能性に関する指摘が行われました。国連機関の報告をもとに、クーデターの影響により、ミャンマーの人々の困窮度や食料へのアクセスが著しく侵害される可能性が指摘されました。実際、ミャンマー軍は食料供給のための道路を封鎖しており、加えて、食料品店を焼き払い、家畜を殺し、農業関係者にまで影響が及んでいるとのことです。その結果、貧困状態が悪化していると報告がありました。
第三に、人道的支援とASEANの「五つの合意」(Five-Point Consensus)に関する説明がありました。同合意の四項目では、ASEANがAHAセンター(ASEAN Coordinating Centre for Humanitarian Assistance on disaster management)を通じて人道的支援を行うことが記載されています。このような合意が存在するにもかかわらず、クーデター以降、少なくとも14人の援助関係者がカレンニー州で拘束され、そのうち3人は恣意的に拘束されたままとなっていることが言及されました。
最後に、ASEAN、国連、米国、欧州連合などを通じた国境を越えた人道的支援の必要性が論じられました。ミャンマー政府は人道的支援を悪用して私腹を肥やしてきた歴史があり、このような事態は避けられなければならないとの考えが示されました。
質疑応答では多数の質問が寄せられました。ミャンマー難民の行き先についての質問では、タイのほか、インド政府もミャンマー難民の支援を行っていることが伝えられました。また、難民間コミュニケーションに関する質問では、国際的なネットワークの存在が難民同士のコミュニケーション維持に役立っていると指摘がありました。少数民族の政権に対する反応については、少数民族と民主派の連帯状況が見られるようになっていることにも触れられました。そのほか、ミャンマー北部中国国境地域での状況、非暴力運動に対する評価、ミャンマー問題に対する米国や欧州連合の影響力についての質問など、活発に議論が交わされました。
【イベントレポート作成】
鈴木涼平(一橋大学大学院法学研究科 博士後期課程)