欧州人権裁判所によるアムネスティの取扱いーアムネスティと重大な人権侵害に対する国家の捜査・訴追義務との関係性
出版日2021年
書誌名EU法研究
著者名竹村仁美
要旨 比較的多くの場合、紛争を経験した国では、広範囲にわたる恩赦が移行期の「取引」の一部となっている。これらの恩赦は、国内の政治プロセスにおける元戦闘員間の分裂を減衰し、治安部門の改革を奨励し、和平交渉中にエリートの政治的妥協を可能にするための手段とみなされることが多い。紛争中の破綻国家においては、戦争犯罪や人道に対する犯罪、そして時には集団殺害犯罪(ジェノサイド)などといった国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪に匹敵する人権侵害が行われることも少なくない。他方で、国際刑事法の発展段階は、国際法が関係国家に対して国際法上の犯罪の訴追・処罰を義務づけているかどうかという視座を指標として計られてきた側面がある。国際法上、国家実行において、国際法上の犯罪の取締義務と恩赦との関係は曖昧なままとなってきた。欧州人権裁判所大法廷によれば、現代国際法上、民間人の故意の殺害など、基本的人権の重大な侵害に相当する行為に対する恩赦は、そのような行為を訴追し、処罰する一般に認められている国家の義務とは相容れないため、容認できないと見る傾向が強まっている。本稿では、欧州人権裁判所が、重大な人権侵害を構成する犯罪への締約国による恩赦に対してどのような態度をとっているのかを明らかにしていく。